Living Loving Leuven

溜池や ナマズ飛び込む 水の音

日本からの在住者と出会う

 実は、少し疲れてきていました。覚悟はしていたものの、英語が「聞き取れない」「話せない」というストレスが、降り積もる雪のようにだんだんと溜まってきていたのだと思います。「気にしない」と自分に言い聞かせても、「あ、わからなかった」「うまく言えなかった」ことのダメージは、自己評価を下げていき、自信を失わせていきます。ちょうど入国して一ヶ月ほどが経過しています。
「まだ一ヶ月?」「もう一ヶ月?」
 頭の中でそんなことを考えることが増えました。たった一年間の滞在生活で、できる限りの成果をあげたいし、在外研究のチャンスを少しも無駄にしたくないと思う気持ちが、余計に焦りをうみます。焦燥感と憂鬱感のミックスした重たい気分。
 その結果、「誰にも会いたくないな」という気持ちが生まれていました。良くも悪くも、家は快適ですからずっと静かに暮らしていれば、研究もできますし、論文も書けます。「もうそれでいいんじゃないか」という弱気いな気持ちが湧いています。それで、研究者Bの次の週の誘いは断っていました。
 金曜日だし、早めに仕事も切り上げて買い物に行き、シャワーも浴びて部屋でのんびりゲームをするつもりでした。
 しかし、Bから夕方、突然のメール。「日本からの在住者と知り合って、今晩、一緒に会うんだけど、あなたも来ない?」という誘いでした。一瞬、「もう今日は」と思いかけて、「いや、日本からの在住者であれば会うべき」だと思い飛び起きて、3分で着替えてバスに飛び乗って街の中心部に出かけました。
 ようやく、外でなら10人まで会えるようになったため、私たちはイタリアンレストランのご夫婦のおうちのテラスに集まりました。そこで、一緒にバーベキューをしてワインを開けていると少し気持ちも和らぎます。
 日本からの在住者の女性は、もうこちらで16年も住んでいるそう。来たときの人間関係を作るきっかけは、オランダ語の語学学校で、友達ができたとの話を聞いて、「あ〜」とため息が出ます。そう、私もこれまでのある程度の期間の海外での滞在は、語学学校に通っていました。語学学校なら、お互いにまだその地のこともよくわからないので、一緒に冒険するように遊びに行ったりするなかで、友達ができていきます。でも、今回の私の滞在では、ひたすら研究者に会うばかりで、みんなこっちに基盤もあるし、語学にも堪能な人たちです。
「こんな時期だし、すごく難しいと思う」
 その女性には共感的に聞いてもらえて、自分の中で納得もできました。
 そして、Bもイタリアンレストランのご夫婦も、みんな海外からの移住者なので、とても私に優しいのです。それも、励ましたり、慰めたりするのではなく、ジョークを言ったりふざけたりして、私を笑わそうとしてくれます。それは愛を感じます。どうにかこの地でやっていくには「頑張るしかない」のだけど、その中でも楽しいことはたくさんある。なんだか、そう思わせてもらえるような人たちに囲まれているのが、本当にありがたくて、帰り道で泣きそうになりました。
f:id:namazu_2021:20210504183816j:plain
 がんばれたり、がんばれなかったり、を繰り返しながら、ここで生活を続けていくしかないのかもしれません。そして一度断ったBの誘いは、やはり受けることにして、来週も一緒に出かけます。