Living Loving Leuven

溜池や ナマズ飛び込む 水の音

語学学校完結編

 語学学校の管理職とお話ししました。女性で非常に率直に「今回の件は私も動揺しているし、重く捉えている」と話してくれました。問題の教員のこととはいま、話し合いをするための約束しているところとのことでした。教員研修で、自分の関心のあるテーマについて研究する試みあるらしく、彼女は教員にこの件について話し合うとのことでした。
 そして、彼女から問われたのは「これは彼女はユーモアだと考えてたみたいなんだけど、あなたの文化でユーモアはどんなふうに捉えられるの? ヨーロッパだと、たとえば姑を悪く言うジョークがあったりするけど、そういうのはないの?」ということでした。私は「え? それ聞く?」と思ったのですが、とりあえず説明。
 第一に、日本には特定の民族を理由に差別を行なってきた歴史があるし、今も実際に起きている。だから、私は決してそういうジョークは口にすることはない。第二に、その教員が「あなたは日本人だから」と言うのは、私に対してだけで、ほかの地域の学生には言わないこと。もし、私がユダヤ人だったら、彼女は「あなたはユダヤ人だから」とは言わないと思う。なぜなら、ヨーロッパでその発言は差別にあたるから。では、なぜ私だけに「あなたは日本人だから」と言うのか。その背景にこそ差別があると思う。
 私は研究者なのでこういう説明は得意なので、けっこうな早口で英語で喋りました。好きな食べ物とか、ホリデーの過ごし方よりは、慣れている話題なので……あと、私は論理的に話してる時が一番ブチ切れてるのが伝わるみたいで、相手が青ざめたのがよくわかりました。意識しているわけではないですが、口調も目つきも変わるし、「お前、俺と闘うなら徹底的にやるからな、どこまでも追及するからな」みたいな雰囲気が出るんだと思います。実際、そうなんですけど、普段の雰囲気は違うみたいで(だいたいのことは「まあいいか」と思うので)。それに対して、彼女は「あなたの言うことは、全くその通りで、これはエクスキューズにならないけど、彼女は全くそういうことを知らなったし気づいていなかった。だから学ばなければならない」と答えました。
 彼女にとっては、定住を目指すわけでもなく、1-2年の滞在にもかかわらずオランダ語を学ぶ学生は非常に貴重だと言っていました。それに対して「私はルーヴェンの人たちが英語が堪能だと言うことは知っているけど、実際の生活を知るためにはオランダ語を学ぶことは重要だと思って勉強をしている。だからこそ、今回の件は象徴的で、私はかれらのことを知りたいけど、かれらは私のことを知りたくないのだと感じてしまった。もちろん、これは例外的な話で、ほとんどのベルギーの人たちは私に関心があることはわかっているけれど、感情の上ではまだダメージがある」と話しました。
 私が、ステレオタイプについて彼女に指摘したことについても、メールでの謝罪には納得しているし、彼女は勇気があり率直な態は尊敬していることも話しました。それでも感情的にはまだ受け入れ難いし、しばらく時間が必要だし、もし回復すればきっと語学センターにも戻るだろうと話しました。彼女としては、私になんとか補償をしたいと思うらしく、「できることはないか?」と聞かれました。彼女からは、もちろんクラスの変更も提案がありました。さらに、もっとフランドルの人たちと交流する機会を設けることもできると懸命に言ってくれました。私の回復を早める手伝いができないかと聞かれました。
 その気持ちは嬉しかったですが、もう私は先週、散々悩んで自己解決してしまったし、「やめる」という結論にもいたりました。それに、「辞める」と決めた今日は、朝起きるのも楽だったし、ここのところ億劫だった家事もさらっとできました。ということは、理由は何にせよ、私にとってオランダ学校に通うことは重荷すぎるので、続けないほうがいいと、自分自身の状態を見ても思います。時間が経てば気持ちも変わるだろうし、もしかするとまた学校に行くこともあるかもしれませんが、今はとりあえず距離を置いて休みたいと思います。
 彼女は何度も「心から謝りたい」と言ってくれましたし、私もそれは真摯な謝罪として受け止めています。それに、こんなふうに真剣に話してくれたのは嬉しかったし、きちんと問題化して組織として取り組む約束をしてくれたのは100点満点の対応だと思います。私としても、この地域の多文化社会の実現にほんの少しでも貢献できてよかったです。
 そして、この対応のおかげで、「やっぱりベルギーええとこやな」と思えたのも良かったです。同じことが日本で起きたら、個人はともかく、組織としてここまでやれるのか、というと難しい。ネガティブなフィードバックへの対応の仕方としては素晴らしかったし、私もいい経験になりました。さすが多文化社会を標榜するだけはあります。自分自身も、日本では教員の立場にあるわけで、その場合はどれだけやれるのかを想像すると……まあ、こんな形で経験を積みたくはなかったですが笑 でも、こういう経験こそ、自分の人生に活かしていきたいなあと思っています。「差別をなくす」ことも大事だけど、「差別が起きた」とすれば何をするべきなのか。そんなふうに考えていきたいです。
 それと同時に、やっぱり告発のはしんどいね! とも思いました。起きた出来事も対応可能な範囲の問題だし、迅速に対応してもらえたし、good caseのほうだと思うけど、私自身はしんどかったもんなあ。なかなか忘れられない出来事にもなるし、自分の見られ方にセンシティブになるのも続くと思う。いろんなことが起きる半年目だね!